分子育種学研究室とは

 本研究室は、長い歴史を持つ農芸化学という研究分野の研究を行っています。

 1987年に、魚住武司教授の主宰する「育種生産工学研究室」として誕生しました。研究室スタッフは、助教授の正木春彦と助手の日髙真誠でした。
 当初は、遺伝子組換え技術を活用した微生物や植物の分子遺伝学的な育種をおもな研究テーマとしていました。
 その後、生物を分子レベルで「育種」するだけではなく、タンパク質やRNAの分子というミクロな対象をも分子工学的に「育種」する研究へも展開し、研究室名を現在の「分子育種学研究室」と改称しました。

 1999年に正木春彦教授が研究室を継ぎ、研究室スタッフは、助教授が日髙真誠、助手が小川哲弘となりました。
 正木教授は、「育種」の概念をさらに広げ、培養困難な微生物を培養する工夫を行い、コロニーを作れない微生物の研究とコロニー形成そのものの遺伝学研究を始めました。
 日髙准教授は、培養できなくてもそこに生息していることを前提として利用することを目指して、イネ根圏微生物生態系の生物窒素肥料としての活用の研究を進めてきました。
 小川助教は、tRNA切断リボヌクレアーゼの作用機構、およびヌクレアーゼと真核細胞のストレス応答との関係の研究を進めてきました。

 2017年3月末で正木教授が定年退職し、日髙准教授と小川助教の二人で研究室を運営してきました。

 2019年2月1日に、葛山智久教授が着任し、新たな研究室として発展させていくこととなりました。

研究内容紹介(暫定版)

葛山智久の研究

 生物は、多様な化学構造を持ち様々な生物活性を示す天然化合物を創り出します。その構造多様性は、ゲノムに書かれている生合成遺伝子がコードする生合成酵素による何段階もの触媒作用によって構築されます。今ではゲノム情報が容易に入手できるようになり、生命情報科学や分子生物学の手法を用いながら天然化合物の生合成遺伝子を取得し再構築することで、新しい化合物を人為的に生物を用いて生産することが可能になりつつあります。このような生合成システムの再構築は生物の新しい分子育種法であり、新しい天然化合物を見つけることが難しくなってきている現在、たいへん注目されています。一方で、生合成システムの合理的再構築による化合物の生物生産を考えた場合、各生合成反応を触媒する酵素の理解はまだまだ不十分です。生合成システムを構成する酵素群は、生物の持つ機能の多様性の実体そのものであり、未知の機能を発掘するための宝庫であるからです。このような背景のもと我々は、特に多様性に富んでいる微生物の遺伝子が持つ限りない未知の機能を発見し詳細に解析することで、微生物育種による新しい有用化合物の開拓を目指します。

日髙真誠の研究

 自然界、特に土壌中の細菌は単独で生きているのではなく、細菌間での相互作用や細菌と植物間での相互作用を通して形成される複雑なコニュニティーの中でそれぞれの役割を果たしながら生きています。ですが、その実態はまだまだ不明です。そこで、イネの根圏に形成される窒素固定細菌を含むコミュニティーに着目し、細菌間相互作用がもたらす窒素固定能の生態学的制御過程を解明したいと考えています。この研究の応用的意義は、このコミュニティーを生物肥料として応用することで持続的農業の確立を目指せることです。

小川哲弘の研究

 生物界では、進化の過程で広く保存されてきた重要な分子が存在します。ここで注目するのは、全ての生物に共通して存在するリボヌクレアーゼです。酵素としてはシンプルながらも、生物ごとに異なる幅広い生命現象に関わります。例えば、ヒトではがん化の抑制やウイルスなどの感染防御を担います。また、酵母ではストレス応答に、大腸菌ではバイオフィルム形成に利用されます。こうした興味深い因子であるもかかわらず、その分子機能についてよく分かっていません。そこで、このリボヌクレアーゼが持つ機能の基本原理を、微生物学の視点から明らかにし、他の生物種における働きの理解につなげることを目指します。

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